長野県・小海町の民話をもとに新たに制作中の小海オペラ劇場『くじらの夫婦』。今回は、作曲を担当する西下航平さんのインタビュー後編!『くじらの夫婦』の楽曲制作にあたって大切にされた点や、今後の展望を伺いました。インタビュー前編はこちら日本語の特性を、西洋音楽の中に来年上演の新作オペラ『くじらの夫婦』で作曲を手掛けるのは、西下航平(にしした・こうへい)さんです。オーケストラから室内楽、合唱まで幅広く作曲・編曲をされてきた西下さん。2021年には初のオペラ作品も上演されました。Q.脚本・演出を務める近藤圭は、西下さんの音楽を「言葉を大切に作曲されて」いると話していました。「歌」というのはすごく大事にしたい点です。僕自身も合唱をやっているし、歌もやっているし。全ての音楽のもとは歌であるということから考えても、歌を蔑ろにしてはいけない。ましては日本語というのは高低のイントネーションと、“モーラ”という拍を感知できる言語です。それを生かさない手はないだろうと。西洋の音楽の文脈に、それをどれだけ食い込ませていけるのか。それでも安っぽいものになってはいけないと思うんです。わかりやすいということは安っぽいことと紙一重ではあるけれど、イコールではないということが非常に重要です。わかりやすさを気にし過ぎてしまうと、ただただ簡単な――演奏が簡単だという意味ではなくて、英語で言うところのeasyな作品になってしまう。それは避けたい。音楽的にも練られたものであっては欲しい。あって欲しいって...あらねばならないのは僕なんですけど(笑)。そこは慎重にやらなければならない、難しいところです。Q.言葉を考えるときは、その言葉が持つ「音」で考えられますか?私は多分、文字なんですよ。これは楽譜の見方にも影響しているんですけど。僕は楽譜を見て弾くのは得意だったんです。聞いて弾くのはあまり得意ではなかった。聞けば何の音を弾いているのかはわかりますよ。わかるけど覚えていられないから、書いてあるのを読む方が得意です。目から入る方も、耳から入る方もいるので。逆の人ももちろんいます。Q.楽譜が読めないけれど、聞けば弾けるという人もいますよね。いますいます。そういう人もいるし、鼻歌だけで作曲しちゃう人もいるわけですよ。「楽譜はあとで起こしといて」みたいな。僕は書いちゃうけど。 オーケストラを書くつもりで8月のプレコンサートで先行披露された『くじらの夫婦』の楽曲は、ピアノ伴奏で演奏されましたが、西下さんは...。一応僕としては、オーケストラを書くつもりで最初からやっています。ここはこの楽器、あそこはあの楽器みたいな。想像としては自分の中にあるんです。Q.ピアノの譜面を作る時点で、オーケストレーションも考えているんですか!もちろん!ピアノの譜面だって、オーケストラだったらこんな風になるよねっていうのが前提としてはある。やっぱりスケールの大きい音楽なので、それくらいは想像しておかないといけないと思います。Q.オーケストラというと、西下さんは薩摩琵琶、ヴィオラ、トロンボーン、チューバなど、ピアノ以外にもたくさんの楽器を演奏されていますが、それはなぜですか。僕はそもそもピアノ以外の楽器を全然やったことがなかったものですから、大学に入ったらとりあえず色々な楽器を触ってみたいなというのがあって。知らないと書けないから、どういうものなのかは知っておきたいじゃないですか。教職課程の授業でオーケストラの授業があって、本当はチェロが良かったんですけど、チェロは(希望者が)多すぎたので、「じゃあヴィオラ行くかな」と思って。でもヴィオラはとても良くて。アルト譜表というハ音記号で書かれる楽譜が出てくるので、あれはヴィオラをやっていなかったらあんなにスラスラ読めなかったと思います。普段馴染みのない記号だから、ヴィオラはやっておいてよかったなと思う。大学のサークルではトロンボーンやったりとか、あるいは吹奏楽の授業でチューバやったり、打楽器もやりました。とりあえず一通りやってみようかなと。木管楽器はやらなかったけど(笑)。どうなるのか、楽しみですこのインタビューを行ったのは、8月に開催したプレコンサートの練習 直後でした。プレコンサートで児童合唱メンバーが披露した「松茸の精のわらべうた」についても伺うと...。子ども達が歌っていると、グッときますよね。「これがちゃんとわらべうたになった瞬間だ!」と。子ども達も、新しい曲を初めて歌う人になるっていう経験は、おいそれとないです。売っている楽譜を歌うことはあっても。「(新曲が)出来て、初めて演奏されます」というときに歌える機会は、一生のうちに何度あるかわからないですから、ぜひ良い経験になってくれればいいなと思います。教育的な意義もあるけれど、それが説教くさくなってはよくないのかなと思います。それは意図したものではない。やっぱり遊んでほしいですね。内田先生がおっしゃっていたように、(音を)外してもいいから、元気なくらいがちょうどいい。それはまさに至言だと思います。8月のプレコンサートでは、「わらべうた」に加えて、「シャチのアリア」「くじらのおかみの子守唄」「シャケのアリア」の4曲が披露されましたが、これは『くじらの夫婦』のほんの一部に過ぎません。Q.まだまだたくさん曲が出来上がってくると思うので、これからが楽しみです!どういう風になるのか。僕自身もちょっと...どうなるのかな?という感じです。楽しみです!オペラ『くじらの夫婦』2025年11月9日(日)上演小海オペラ劇場『くじらの夫婦』は、2025年11月9日(日)小海小学校にて幕を上げます。まだ少し先ですが、開幕に向けた準備は着々と進行中...。小海町の皆さまはもちろん、他の地域の皆さまにも楽しんでいただけるよう、準備を進めております。ぜひご期待ください!インタビュー前編はこちら小海オペラ劇場『くじらの夫婦』2025年11月9日(日)小海小学校 体育館